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第七章 許されないワルイコト 7

Penulis: 霧内杳
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-03 15:18:14

『ふぅん』

彼は興味なさそうに一言漏らし、コーヒーのカップを口に運んだ。

『凛音はこのあと暇かい?』

何気なく聞いてきた彼の顔を、なんともいえない気持ちで見ていた。

今、待ち合わせをしているって言いましたよね?

それは完全にスルーですか?

『展覧会のチケットをもらったんだ』

証明するかのようにチケットを二枚、彼がカウンターの上に滑らせてくる。

『どう?

凛音はきっと、好きだと思うけど?』

にやりと彼の頬が歪む。

それは私の好きな画家の展覧会だった。

炯さんが帰ってきたら誘ってみようと思っていたし、ダメなら仕事帰りにひとりで行こうと計画していたくらいだ。

『……いえ。

お断りします』

後ろ髪を引かれながらチケットを彼のほうへと押し戻す。

誘ってきたのが島西さんなら、せめて職場の男性上司なら、日を改めてもらえば行っていたかもしれない。

しかし、ベーデガー教授は絶対にダメだ。

それくらい、私にだってわかる。

『ふぅん』

彼がチケットを引っ込める。

あっさりと諦めてくれたなと思ったものの。

『この展示、僕の知り合いが関わっていてね』

だから、なんだというんだろうか。

くだんの画家はドイツ出身で、その作品はドイツの美術館に多く収蔵されている。

なので別に、彼の知り合いが関わっていてもおかしくはない。

『日本にも一緒に来ているわけだけど、よければ作品解説もしてくれるし、バックヤードも見せてくれるって話だったんだけど……そうか、凛音は行かないか』

「うっ」

物憂げに彼がため息をつき、声が詰まる。

そんなの、絶対に行きたいに決まっている。

でも、相手は私を虎視眈々と狙っているベーデガー教授、で。

これにどんな思惑があるかくらい、私だって気づいている。

『こんな機会、二度とないと思うんだけどなー』

カウンターに頬杖をついて私と目をあわせ、彼はにっこりと微笑んだ。

『い、行きませんよ』

きょときょととせわしなく視線を動かしながら、少しでも気持ちを落ち着けようとストローを咥える。

彼の言うとおり、こんな機会は二度とないのはわかっていた。

こんなもので釣ってくるなんて、卑怯だ。

『ふぅん。

これでもダメか』

『はい、ダメです』

それでも、これ以上ないほどいい営業スマイルで、きっぱりと言い切る。

『あっ』

一言発し、唐突に彼は窓の外を見た。

つられるようにそちらに視線を向けると、炯さんがこ
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